『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界』

Too2009-05-30

 感想を書いたブログがほとんど見当たらないので、先鞭をつけてみます。詳しいデータおよびお買い求め(笑)は↓をどうぞ。

 『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界―ムーミントロールの誕生』冨原眞弓著/青土社刊/税込3990円
 原画展で「こんなの出たんだー」と知り、関係者の方と新商品の話をしていたら、「冨原先生が何十年もかけて資料を集め、研究し続けた集大成である」と。それは買わなきゃ!と思ったものの、重かったのでネットで買いました。で、ちょこちょこと読み進んできたのですが、きちんと読んでいると終わりそうになかったので(汗)、ひとまずざっくりと目を通ししました。力作に対してそんな言いぐさが大変失礼なのは承知していますが、興味を感じるポイントは人それぞれですから、定価で買って、(一応は)読んだ立場から、個人的な感想を書かせていただきます。


 まず、3990円という価格でためらっている方も多いと思いますが、コストパフォーマンス(?)という意味では、これは「買い」です。むしろ、安い。図版たっぷり、綴じ込みカラーページまであり、全460ページ。5000〜6000円はつけてもよかったんじゃないかなぁと思います。それがたったの3990円! アラビア食器1個、1回の外食を我慢すれば、これだけ充実した読み物が手に入るんですよ〜。
 次に。本の厚さに「よ、読めない……」と腰が引けちゃう方も多いと思います。わかります(笑)。冨原先生の文章は、やっぱり学者さんっぽいんですよね。『芸術新潮』に掲載された「ムーミン」の新訳は賛否両論(いや、「なじめない」という意見のほうが多かった。なじみ深い旧訳に軍配が上るのはある意味、当然のこと)でしたが、端正で的確な文章ではあるものの、エンタテインメント性は高くない。しかも、これだけ分厚いと、たとえ著者が京極なんとかとか宮部なんとかとか東野なんとかだったとしてもひるみますよね(個人的には、この厚さでも読もう!と思うのは池上永一さんぐらいです)。でも! ご安心ください。絵がいっぱいです(笑)。おそらく、日本初紹介となる、トーヴェさんと母シグネさんの絵がたーくさん! 風刺雑誌ガルムに描いた絵とムーミン童話の挿絵との比較もあります。ファッツェルのマグを思わせる1951年の広告イラスト、ポストカード用に描いた動物の絵、珍しい自画像(と他のイラストレーターが描いたトーヴェの似顔絵)など、絵を見るだけでも十分に元は取れます!
 ただ、すごく残念なのは、イラストと解説が別のページに渡ってしまっている箇所が多いこと。作る手間はかかるかもしれませんが、本文と(離れた位置にある)挿絵ではなく、絵+キャプションという形で、読みやすく作ってほしかったです。


 さて。ムーミンファンにとって、いちばんの見どころは「ムーミントロールの誕生」の部分でしょう。ガルムに登場していたムーミンの原型と思われるキャラクターが「スノーク」という名札をつけていたという話、ムーミンとスヌスムムリク(スナフキン)そっくりの服装の人物がすでに共に描かれていたという発見などなど、興味深い解説が次々に飛び出します。また、トーヴェだけでなく、風刺画家(イラストレーター)としてのトーヴェに大きな影響を与えた、母シグネに大きなスポットが当たっているのも読みどころのひとつ。わたしの知るかぎり(わたしの頭はスクルッタおじさんなので、どんどん忘れていきますけれども)、トーヴェの両親のそのまた両親の系譜にまで言及した本は初めてではないかと。
 ただ、この本のメインはムーミンではなく、ガルムという雑誌の紹介と時代背景の解説、です。正確なタイトルをつけるなら「ガルムにおけるシグネ&トーヴェ・ヤンソンと、その時代」といったところ。歴史ドキュメンタリーに興味がないと、かなり厳しいです。
 読みながら実感したのは(とても個人的なことですが)わたしはムーミンよりもむしろ、トーヴェ・ヤンソンのことを知りたくてこの本を手に取ったんだ、ということ。ムーミンについて知りたければ、ムーミン童話を読むのがいちばんだと思うんです。↓キャラクターを解説した本も出ています。

 たとえば、ミイとスナフキン、どっちが年上か?という論議がありますが、原作をじっくり読んで、自分で納得のいく説をとればいい。でも、トーヴェ自身については、作品を読んでも、実際の出来事を知ることはできません。作品を読む上で、実際のことなんて不要かもしれないし、邪魔かもしれない。ただ、作品への愛着とは別に、トーヴェについてもっと知りたいという興味があるんです。この本はその一部(家族関係や戦争がトーヴェに与えた影響など)を明かしてくれた一方、大人になってからのトーヴェのプライベートに関してはすっぱり無視という、非常にフラストレーションの残る部分もありました。巻末には図版の出典リストや参考文献、登場人名索引がありますが、ピエティラの名前はない(読み落としたかと思って巻末のリストもチェックした)。原画展でも見ることができたガルムの表紙にトフスランとビフスランそっくりのキャラクターがいて、由来が気になっていたのですが、絵の比較と「トフスランがトーヴェの分身だ」という説明はあるものの、ビフスランのモデルになった人物についてはまったく触れられていません(トーヴェが『ムーミン谷の夏まつり』を捧げた相手、ビビカ=バンドレルさんがモデルだそうですが)。

 ムーミン作品の成り立ちや背景に関しては↑のような本もあります。となるとやっぱり、個人的に読みたいのは大人になってからのトーヴェにまつわる記録やエピソード。その部分に関しての記述が少ない(『芸術新潮』などを読んでも)ことに関しては3つ、(勝手に)仮説を立てています(笑)。1)今後、そういう本が出る予定、2)遺族が規制している(=トーヴェの意向を反映している)、3)著者が興味を持っていない(または触れたくない理由がある)……。いずれにしても、この本が売れないと、次が出にくくなるかもしれません(冨原先生は「本が売れて儲かったからもう働かないわ」なんてタイプではなく、稼ぎは次の研究に注ぎ込んで、また新たな本を書いてくれるタイプだと思いますし)。ですから、この感想文を読んで、「やっぱり買わなくていいわ」ではなく、「実際に手にとってみよう」と思っていただければさいわい。とにかく、膨大な資料を読み解き、1冊にまとめあげた情熱と力量はすごいものがあります。お読みになった方との意見交換も、楽しみにしています!


 長くなったついでに、本が積んである一角の写真をご紹介〜。

 この向きで横積み。本棚にはもう入りきらないし、収拾がつきません〜。仕事用と趣味と頂き物と買ったけど読んでないのが混じってます。百合とホームレスは仕事です。すごい取り合わせ(笑)。チョコボはラスボスが倒せず、リタイア。

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズは久々におもしろかったな〜(読んだのずいぶん前だけど)。オースターは『幻影の書』より『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』のほうが好みだった。流れで、ジョナサン・キャロルを再読。最近、いちばんおもしろかったのは『肝、焼ける』。朝倉ワールドにハマりたいー。でも、おもしろすぎてちょっと疲れるので、今はどうかなー。まとめ買いよりコツコツとタイミングを見て読み進めたい気分。あ、今夜のキム●クドラマ、死刑囚の指紋が現場に!ってやつ。データ操作ってオチだったらパ●リ確定です(笑)。文庫版ムーミンの古いほうの背表紙にもご注目〜。揃ってないけど、そういうのぜんぜん気になりません。読めればいい。なので、読めない本(外国語とか)には興味ないです。日本語、大好き。にしても、今日の日記は長すぎですよね(笑)。すみません。

 見本誌と掲載紙と資料。初めてビッグイシューを買いました。正直、中身の濃度はR21と変わらない気がしましたが、寄付と思えば。趣旨説明部分(「アルコールや薬物の影響下で販売をしません」とか)がおもしろかった。